新 暮らしの絵日記

○月□日 おつくりといいました

 今日は仕事帰りに魚屋に寄ってマグロのおさしみを買った。今晩の私の夕食用。おさしみとしその葉と沢庵とをはさんで手巻きずしにして、かぶの葉の浅漬けの箸休めだけの夕食だったけど、おさしみが1.5人前もあったからものすごくお腹がいっぱい。私はお皿のものを残せない。なにしろ戦後のひもじい時代の記憶があるから。おさしみを食べる時、時々野坂昭如さん原作のアニメ『火垂るの墓』で妹が、白いごはんとおつくり(おさしみ)を食べたがったシーンを思い出す。

○月△日 東西味くらべ

 東京の岬屋さんの栗蒸し羊羹がおいしかったので京都の知人に話したら、京都の亀末廣の栗蒸し羊羹もおいしいという話だった。まず自慢した東の栗蒸し羊羹をお送りした。そしたら西の栗蒸し羊羹を昨日頂いた。で、食べ比べてみた。食べているうちに、どっちがおいしいのか判断ができなくなった。ふつう食べ比べればどっちがおいしいか好みか、はっきりするはず。なぜだろうね。栗はどっちが好みかいえるのだけど、蒸し羊羹と混ぜて食べるととたんに分からなくなる。こんなのは初めて。不思議な食べ物だと思う。

○月□日 捨てなくてよかった

 今日、捨てるはずだった靴をビニール袋から出して、履いて仕事場に行った。実はイギリス(元はドイツ製だったそう)のドクター マーチンとコム デ ギャルソンのコラボ靴で、表は革だけど底はゴムのような素材になっている。で、革はくたびれないのに、底はよく歩いたから減ってしまった。私、歩き方がよくないから、かかとの外側が斜めに減ってしまっている。そういうのしみったれて見えて嫌なので、靴修理に張り替えを相談したら、素材と作りから修理不可能ということだった。それで捨てることにしていた。でも靴は燃えるゴミに出すか燃えないゴミに出すかわからなかったので処分できていなかった。この前、知人がそのコラボの靴を履いていたけど、けっこう履いた感じがあってそれでも魅力的だったから、履いてみようと思ったのだ。大丈夫まだ履ける。ハハ、捨てなくてよかった。

○月□日 ニューヨークに行きたい

 ダルマーが入院したときだったと思う。今から優に16年は前になると思う。この機会を逃しては夫婦2人で家を空けることはできないだろうと思って、決心してニューヨークに行ったのだった。あれからニューヨークに行っていない。ダルマーも死んじゃったし、そろそろ行き時だと思うけれど、夫婦ともども老人になってしまっているから、しっかり計画をねって用意万端整えてじゃないと無理。ニューヨークに住んでいる友達も老人になっているから、昔のように一から十までお世話になることはできない。最近知っている人がニューヨークに行かれた。いいらしい。面白いらしい。おいしいらしい。まあ世代が違うから楽しみ方は違うと思うけど。1966年、私が26歳、夫が25歳で初めて行って約4か月滞在して、私たちは後の人生を大きく変えたといっても過言ではない刺激をニューヨークにもらった。だから、今もう一度行きたい外国なのだと思う。行けると良いなあ。




「住む。」No.48(2014年2月 株式会社泰文館発行)
P12-13《新 暮らしの絵日記 第24回 大橋歩》より抜粋

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