新 暮らしの絵日記

○月□日 いい映画だった

 ニューヨークに40年住んでいるアーティスト篠原有司男と乃り子夫婦の映画「キューティー&ボクサー」を渋谷の映画館に観に行く。渋谷パルコでその2人の展覧会もしていると聞いていたので、まずそちらを先に見る。展覧会会場に入ったとたん咳が出始め止まらなくなる。どうも立体の作品に使われている接着剤かなにかが私には合わないみたい。篠原有司男は60年代にはモヒカン刈りの前衛アーティスト(この頃は、現代アートというくくりはなかった)として有名だった。それなのにパルコの展覧会会場には若い人が多かった。でも映画館は案外空いていた。中央あたりの席を買って座った。始まると画面を見上げる感じだったので前すぎだったと思ったけど、観ているうちに気にならなくなった。面白かったからだと思う。80歳を超えた篠原さんは今もアーティストを続けられていて幸せ。アーティストの奥さんは、どこもここも苦労が多いのよねえー。

○月□日 いい展覧会よ

 1月4日から約1か月間「三重県立美術館」で挿絵展をしてもらっている。イベントとして、詩人の長田弘さんにお願いをしてトークショウに出ていただいた。長田弘さんにお会いできたのが、私個人的にはものすごいうれしいことだった。で、このところなぜかいろいろ仕事の依頼がある。展覧会をしてもらうという動きがちょっと影響してなのか。でも今は体調のこともあり、ほぼ断っている。最近は「したいことしかしない」だけじゃなくて「無理しなくてはならないことはしない」を決まりにしている。でも「いただける仕事はできるだけする」が若い頃の考えだった。それが美術館でも並べていただける大量の作品になったんだと思う。できる時にはしておくものだと思った。

○月□日 面白かったです

 この前、もたいまさこさんに仕事でお会いした時、事務所の社長の安藤さんから、WOWOWOで放映されたドラマ『パンとスープとネコ日和』のDVDを頂戴した。(うちはWOWOWと契約していないので観られなかった)。そのDVDをプロジェクターで2日にわけて観た。物語は世田谷の松陰神社という商店街の裏通りの住民の話。ほんとうの松陰神社通り商店街は住人の生活商店街だから、八百屋、魚屋、肉屋、そば屋、和菓子屋、おでんだね屋といった昔ながらの店にまじって小さなしゃれた文房具屋などもある。だからドラマの設定の食べ物屋は、いかにもありそう。出演は小林聡美さん、もたいまさこさん、光石研さん、加瀬亮さんなど。面白かった。

○月□日 洋服屋になりました

 今私は服を作っている。服を考えるのは私で、生産進行管理や、販売や、卸や、その他いろいろの仕事をスタッフがしてくれている。小さい会社なので、報告確認を大切にしてしっかりつながってやっている。でも初めての生産業務だったから、最初はうまく流れなかった。大きすぎるワンピースをたくさん作ってしまったり、シビアに数出ししすぎ、売れたのでリピートを出したらすでに生地がなくなっていたり。それにしても、よい服を作るのはむつかしいのね。私はうちの服も着るけど、前から着ているコム デ ギャルソンのもダニエラ グレジスの服も着る。その2つのブランドを着てうちの服を考えていることが多い。刺激になってとてもいい。でも今日はショップに突然知人が来てくれたので、仕事場からあわてて行ったら、他のお客さんに挨拶された。私は自分とこの服を着ていなかったので、お客さんに対して申し訳ない気持ちになった。




「住む。」No.49(2014年5月 株式会社泰文館発行)
P12-13《新 暮らしの絵日記 第25回 大橋歩》より抜粋

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