大橋歩展初日11月6日の朝7時。この特集でご紹介する会場写真を撮影しようと訪ねた開店直後の代官山 蔦屋書店は、図書館のような雰囲気でした。棚に整然と並べられた本や雑誌が探しにくる人を待っているような、静かな気配が漂っています。朝早くから開いているパン屋さんもうれしいけれど、朝早くから開いている本屋さんもいいなあ。そう思いながら、大橋のコーナーを探しました。今回は、3棟、9カ所に展示があるという盛りだくさん。蔦屋書店の勝屋さんたちが用意して下さったフロアマップ入りのパンフレットがとても頼りになります!

　最初に向かったのは２号館２階のラウンジ「Anjin(アンジン)」。ここでは“大橋歩が描いた『平凡パンチ』1964年～1971年”と題し、壁一面を使って創刊号の表紙の原画、ポスターなどが紹介されています。
　当時23歳の大橋は表紙用に何枚も絵を描いたそうで、今回はその習作も展示。完成までの変遷がごらんいただけます。
　『平凡パンチ』はイラストレーターとしての出発点。このコーナーからスタートして一巡するのがおすすめですが、最後にもういちど「Anjin」に戻ってティータイムを過ごすのもよさそうです。ここには『平凡パンチ』のバックナンバーがすべて揃っていて、自由に手に取って読むことができるからです。これ、けっこう夢中になってしまいます。

　また、大橋が『平凡パンチ』の表紙を描かせていただいていた時代(1964年～71年)にちなんだ展示が３つのフロアで展開されています。
　映画フロアでは“映画がお手本だったー『平凡パンチ』の時代の映画たち”、クルマフロアでは“クルマを持つことが憧れだった！ー『平凡パンチ』の時代のクルマたち”、そして音楽フロアでは“生活の中にいつも音楽があったー『平凡パンチ』の時代の音楽たち”。
　映画や音楽、そしてクルマはファッションやスポーツとともに大橋の描く表紙の題材として何度も登場し、本誌で取り上げられることも多かったテーマ。蔦屋書店各フロアのコンシェルジュたちが当時の、懐かしく、かつ今でも魅力的な作品を集めて紹介している棚の前でもついつい滞在時間が長くなりがちです。

　人文・文学の書籍を扱うフロアにある“大橋歩の挿絵から楽しむ『村上ラヂオ』”のコーナーには村上春樹さんのエッセイ集『村上ラヂオ』シリーズ3作が勢揃い。イオグラフィックオリジナルの『村上ラヂオ』マグカップ、そしてポストカードも販売しています。ここは旧山手通り側の、外光の差し込むこじんまりしたスペースで、ベンチも数席。好きな本を試読することができる穴場で、またまた腰を落ち着けたい衝動が…。でもまだ紹介したいものの半分にも至っていません！ギャラリーに進みます。

　ギャラリーAの “『村上ラヂオ』のエッセイから生まれた銅版画たち”と、ギャラリーBの“ 大橋歩のzine『アルネ』のつくり方”は、『平凡パンチ』とは対照的に1990年から今に至る大橋の仕事を紹介するコーナー。こちらも見ごたえのある展示にしていただき、これが目的でなしにいらしたお客さまにも楽しんでいただけそうです。
　今回うれしいのは、銅版画と同時に銅版画をプリントしたコム デ ギャルソンとのコラボレートＴシャツも見られること。どちらも限定数ですが、販売をしています。
　2002年～2009年まで発行していた『アルネ』30冊一挙展示もはじめての試み。イラストとも銅版画とも違う、大橋がカメラを通して描きだした軽やかな世界がずらりと並ぶ光景はとても新鮮です。

　ふたつのギャラリーの間に位置する２号館１階のマガジンストリートには“大橋歩の雑誌とざっし。本とほん。”とポップが立った大きなテーブルがあり、表紙のイラスト、絵本、エッセイなどこれまでかかわってきた雑誌や本が並んでいます。文庫本や小さなサイズの本は小さな棚におさめられていたり、書見台のように斜めに立てかけられたり、ディスプレイもかわいい。今回のフェアのために探していただいた古書や、第１話でご紹介した勝屋さんおすすめの３冊、そして三重県立美術館展覧会カタログ『大橋歩わたしの時代1962-2009』、『平凡パンチ　大橋歩表紙集』などもこちらに並んでいます。

　最後にご紹介するのは３号館1階料理フロアに設けられた“毎日の「生活」を楽しくしてくれるものたち”。料理や暮らしに関わる本の他、イオグッズオリジナルのリネンや帆布のトートバッグやTシャツ、器、ポストカードなどが並んでいます。出張イオショップのようなコーナーですが、いつもと違うはなやかな場所にディスプレイされて商品たちがうれしそう。この機会に手に取ってごらんいただけると幸いです。
　代官山 蔦屋書店の大橋歩フェアは12月5日まで開催中。ぜひお出かけ下さい！