特集「しょうぶ学園ヌイ(nui)プロジェクトのシャツ展」へのお誘い

「大人のおしゃれ9」にしょうぶ学園のシャツを着て出てくださったイワタトシ子さん。イワタさんは名古屋でセレクトショップ、古着ショップをなさっている。

イワタさんのシャツです。「まず色彩にひかれました。ピンクだけれど可愛くなりすぎない、そして他の色との組み合わせも絶妙です。デザインが自由で遊び心もあり、縫っている人の心まで見えた気がしました。このシャツがしょうぶ学園との出会いのきっかけです」。「ギャルリ hu:」のヌイプロジェクト展で購入。

イワタトシ子さんが着ていたシャツ

　そもそものきっかけは今から1年半ほど前、2013年の秋に大橋が出会った1枚のシャツでした。「大人のおしゃれ9号」の取材。名古屋で撮影させていただいたイワタトシ子さんが着ていたシャツがとてもかっこよくて大橋はイワタさんに聞かずにおれなかったのです。
　「それ、どこのですか？」
　自由にステッチが走る、それまで見たことのないシャツを大橋は欲しいと思ったのです。
　イワタさんに教えていただき、そのシャツが鹿児島にある知的障がい者施設しょうぶ学園の「ヌイプロジェクト」でつくられていると知りました。
　「でも福祉施設でつくられているものを応援として購入するというのではなくて、素晴らしい作品だから欲しいとなるクオリティーのもの」と大橋は感じ、イオショップ＆ギャラリーで紹介させていただけるといいなと思ったと言います。アクセサリーでもアートでも、いいと思ったものを誰かに伝えたい。こういうときの大橋はまっすぐです。まっすぐですが、自信がないのでダイレクトにしょうぶ学園にお願いはできず、しょうぶ学園に行くというイワタさんについて行くことにしました。2013年の年の暮れのことでした。

2013年の名古屋でのライブ。パフォーマンスを率いるのは園長の福森伸さん。後ろにぐるりと立つ「orabu」のメンバーは全員職員スタッフ。

メイク中のスタッフと伸さん。「おらぶ」ことはスタッフにとって大事だと思っています。
打楽器をエレキに持ち替えたり、踊り続けるパフォーマーも。衣裳担当は順子さんたち。

楽譜。自分たちの音はオット、とかオットト。だから「otto」と伸さん。音はズレているかもしれないけれどそれが嫌ではない。強さがライブから伝わってきます。
練習風景。ブルーのTシャツを着て踊っているのはしょうぶ学園のお蕎麦屋さんで働く園生の小松尾彰さん。

「しょうぶ学園」の映画を撮りたい

　当時イワタさんはしょうぶ学園の映画を撮影中でした。
　「2013年6月に、名古屋でしょうぶ学園のパフォーマンス集団「otto＆orabu」のライブを主催しました。当初はその記録を残すつもりで撮影をしていたのですが、その背景も含めて映画にしたい、伝えたい気持ちがわき上がったんです。柵木監督も思いは同じでした」とイワタさん。
　「otto＆orabu」の「otto」は音、「orabu」は鹿児島弁で叫ぶという意味の「おらぶ」。しょうぶ学園の園生（障がいを持つ人）と職員の総勢30人ほどで構成され、パーカッションのリズムや音色と人の叫び声でライブ活動を行っています。もともと音楽畑の仕事をしていたイワタさん。別々の知人二人から「イワタさんが大好きな音楽があるから聞いてみて」とすすめられたのが「otto＆orabu」だったそう。
「最初はYou Tubeでびっくりして、すぐに福岡にライブを聴きに行ってもう号泣でした」。
「もうこの歳になるとさいこーにかっこいいなんて思うことないんです（笑）。それがこんなに心がドキドキ動くってどういうこと？　ふつうに聴いてもかっこいい。障がい者って何？　この向こう側に何があるの？　感動の背景が知りたくて遂には名古屋でのライブを開催、そして映画につながっていきます。ライブも映画もたくさんの方にご協力いただいて」。イワタさんと大橋、なんか似ていませんか。
（4月11日に上映させていただくのはこの映画です。詳細はこの第1話の最後をご覧下さい。）

しょうぶ学園の敷地にゆったりと弧を描いて建つ園生の寮やカフェテリア。

地域交流スペースの壁には、一面に園生の翁長ノブ子さんの絵が。ペイントしたのは職員たち。
園内のアートギャラリーでは、常に作品展が開催されている。このスペースもアールを描き、外側を水辺が囲んでいます。

園内を散歩する利用者とスタッフのスナップ。ゆったりした時間が流れています。
絵画スペースで女の子の絵を繰り返し描き続ける有川るり子さん。「ここでは園生の方たちがナチュラルに暮らしている。居場所があるんですよね」とイワタさん。

布の工房で。たっぷり糸を使って円を埋めて行く刺繍に夢中の米徳万里子さん。園生の刺繍にはそれぞれにクセのようなものがあるそう。
園生の伊藤勇二さんが毎日書き換える看板は『カリヨン黒板日誌』という本になっています。本のブックカバーは手すきの紙に木版印刷。1冊ずつ違います。

ずっとここに居たいと思う場所

　イワタさんにきっかけをもらって大橋はしょうぶ学園を訪ねることができました。
　「1泊2日の予定で、鹿児島は初めてだったから初日はしょうぶ学園に伺って展示のお願いをして、翌日は観光でも、と思っていたんです。でもずっとここにいたいと思って結局2日ともしょうぶ学園で過ごさせてもらいました」（大橋）。
　樹齢200年を越える木がたたずむゆったりした敷地、ゆるやかなアールを描く寮やオフィス、壁に園生が描いた絵をペイントしたギャラリー、園内にあるレストランで食べたお蕎麦やパンのおいしさ、そして「ヌイプロジェクト」をはじめとする「工房しょうぶ」の園生と職員スタッフがいっしょになってのものづくり。初めて「しょうぶ学園」を訪ねた時のことを大橋は著書『わたしのお買い物』のなかで「久しく感じていなかった大きな感動をもらいました」と書いています。
　「ほんとうに想像していたよりずーっとずーっと学園の内容はすばらしかったのです。私の感動は園長さんの福森伸さんと奥さんの順子（のりこ）さんの感覚がすばらしいからだと思いました」。「でも感覚だけじゃない、すごく勉強もなさっているし、いろんなものと戦ってこられたと思います」（大橋）。

優劣のつく下請けはやめました

　しょうぶ学園は現在中心となって運営をしている福森伸さんのご両親が1973年にはじめられた施設。設立当初から手を動かす作業を大切にしてきましたが、下請けが中心でした。
「私たち健常者と言われる人の下請けになりますが、園生が健常者よりも能力を発揮することは無理があるんです。ノルマもあるので、スタッフ職員はどうしてもできる人に声をかけるし、例えばまっすぐ縫う指導をしないといけない。そうするとスタッフもガミガミしがちで、仕上がりには優劣がつく。そういうのって体で感じるしよくないんじゃないかって。だから下請けはやめたんです。その一方で園生が針や糸、布で好きに手を動かすなかでできるものがおもしろい、いいな、と思えて」と話すのは順子さん。布の工房の責任者をしています。

「わたしのお買物」の表紙。中央にしょうぶ学園のシャツが。岐阜のギャルリももぐさの「しょうぶ学園展」で購入できました。
轟木美寿々さんがカラフルな糸でずぶっずぶっとランダムに刺したシャツにスタッフが紺色のパッチーワークやミシンステッチを施して仕上げてあります。

ヌイプロジェクトのシャツは白が多いけれどこれはグレー。虹の川のようなチェーンステッチは大田智子さん。格子はスタッフのミシン。

ゆるやかな運針は櫻井えみ子さん。ステッチをほどこした薄いオーガンジーをシャツの襟などに重ねて仕上げています。

右身頃は紫の糸、左身頃は紺の糸で運針。線がズレた箇所の刺繍もかわいい。緒方江津子さんの作品にスタッフが上から大小の円のミシンステッチ。

「いいよね？」「やっぱりそう思う?」

　「最初『いいよね』『やっぱりそう思う？』『思う』といっていたのは僕と順子、そして姉だけでした。でも美術の専門家ではないし、いいと思ってもそれをどうしていいかわからなかったですね」と伸さん。しかしアートシーンも時代とともに変わり、福森さんたちは少しずつ状況を変えていきます。布だけでなく、土や木工などのクラフトもコンペに出すと入賞することが増え、注目を浴び、しょうぶ学園のものづくりを園生主体に進めて行きました。
　「障がいの程度にもよりますが、園生は自分のつくったものがどう評価されるかについて関心がないんです。針と糸と布で何かをする過程、木を彫る瞬間のつらなりだけが大事。人の真似もしないし情報にも左右されない。僕たちにはそれはむずかしいですから、憧れちゃいますよね。彼らといっしょに過ごす中でどれだけ気づき、考えさせられることか。でも僕らには僕らでやれることがある。それをするだけです」と福森さんは言います。

ヌイプロジェクトのシャツ

　今回イオショップ＆ギャラリーの展示はしょうぶ学園の工房のひとつ「布の工房」で手がけているシャツが中心となります。詳しくは第3話でご紹介させていただく予定ですが、シンプルなシャツに作者（園生）が針と糸で自由に刺繍、それに工房のスタッフがミシンステッチを重ねてつくりあげています。作者のニードルワークはほんとうにそれぞれに個性的。ダイナミックなものにも、繊細なものにも、それぞれに目が離せなくなる力があります。プロジェクトがスタートした当時はスタッフのミシンは作者の刺繍がほどけない程度に、ということだったそう。でも今は作者の刺繍を大事にしつつ遠慮せず、より素敵な1枚をつくる共同作業としてスタッフも楽しむようになっているといいます。第2話では、このシャツが生まれる工房の様子をご紹介します。ご期待下さい！

福森伸さんと順子さん。

しょうぶ学園の日常のワンシーン。

「so:but[and]＝1.2.3.4 -あらかじめ,情動の.」上映会のお知らせ

　しょうぶ学園の園生とスタッフで構成される、パーカッションと叫び声のパフォーマンス集団として注目を浴びる「otto＆orabu」。この映画は、2013年6月に名古屋で行なわれた彼らのライブやそのバックステージの様子を中心に、しょうぶ学園の日々の暮らしを追ったドキュメンタリーフィルムです。圧巻のライブはもちろん、園長である福森伸さんと園生、順子さん、そしてスタッフの間で交わされる会話もぐっと胸にこたえます。知的障がい者という枠を超え、見た人の中で何かが変わる、そんな映画です。
撮影・編集・監督は柵木志（まさぎ・あつし）さん。プロデューサーはイワタトシ子さん。企画NPO法人　I have a dream　（上映時間75分）
公式サイト sobutand1234.com/

この映画を多くの方にご覧いただきたく、青山（東京）ディーズホールのご協力をいただき4月11日（土）に上映会を開催することになりました。上映会は（1）11時、（2）14時、（3）17時15分からの3回。（3）回目は福森伸さん、イワタトシ子さん、大橋歩のトークショーを予定しています。参加ご希望の方は、お申し込み方法などについてこちらをご覧下さい。
※席数に限りがございますことご了承ください。
（写真協力／三品鐘、柵木志）