ダニエラ・グレジスさんのパーリャバッグの特集は12ぺージ。撮影日はワークショップも兼ねていました。
「御菓子丸」という名前で和菓子をつくっている杉山早陽子さん。「味を守るのではなく、今の時代にあったお菓子がおもしろい」と大橋。
「面白みのない腕時計を脱ぐチャンスになった時計」「おしゃれの楽しさを教えてくれた時計」。CABANE de ZUCCa WATCH がたくさん登場します。
京都、御幸町蛸薬師上ルの「BARBER HIGUCHI」はイオプラスの大家さんのお店。おしゃれなスタイルを裏打ちする背景を、大橋がみつけました。
「受け入れてもらえるだろうか」
今年の春から夏、大橋はほんとうに忙しそうでした。小さなからだの極端ななで肩に大きな袋をしっかりかけて、いつにも増して休みもなしに、あっちへこっちへ。何をしていたかというと、「アルネ」をつくっていたのです。定期刊の「
大人のおしゃれ」もつくりながら、しかも2冊同時に発売しようと企てて。
この特集担当もそうですが、大橋の「アルネ」を通していろんな事を知り、世界を広げてもらったファンにとって、それはとても嬉しいニュースでした。30号を出し終えたときの、「30冊で考えていたことを全部お伝えした思いがある」という言葉を、大橋がいつか撤回するのを待っていたような気もします。
でも大橋本人にとって本づくりはなまやさしいことではなかったようです。インタビュー取材後のテープ起こしや原稿確認はスタッフに頼むけれど、それ以外はグラフィックデザイナーにデザイン依頼をするまでほぼひとりで進めます。発案も、取材も、撮影も、構成も、原稿も、イラストも。
「ひとりで考えるのは楽しいし、ひとりでなければ思うようにはできない」。けれど、ぎりぎりまでねばって、こんを詰める作業を76歳になった自分が続けられるのか? そしてなにより受け入れてもらえるのか? 大きな不安があったと言います。
いろいろな出会いが重なって
「時代は変わります。『年寄りが今更どうして?』と言われるかもしれない。いちばんの問題は人から見た自分を考えてしまうことでした」と大橋。
「それでもやってみようと思ったのはいい人に恵まれて、いろいろな出会いが重なったこと。そしてその中に自分がおもしろいとしたり、ひっかかることがある、その感じが『アルネ』をつくっていた頃と同じだったからなんです。自分のなかみは変わっていない。だからできるかなと思えました。『いい人に恵まれたことを何かに生かせたらいいな』を実現するのは体力的に今が最後かな、今ならまだできるかもしれないとも思いました」。
マヨルカ島の記事は
ダニエラさんのお話から
9月15日の発売を前にようやく刷り上がってきた新しい「アルネ」を少しご覧いただきたいと思います。大橋の「いろいろな出会い」から始まった話がもりもりと収録され、とても充実した56ぺージです。
スペインのマヨルカ島の記事は、ダニエラ・グレジスさんに伺ったお話がきっかけでした。
ダニエラさんは『アルネ』29号で取材させていただいて以来、「大人のおしゃれ」でもお世話になっているイタリアのファッションデザイナー。そのダニエラさんが今、マヨルカ島の暮らしや環境保全のためのプロジェクトを進めようとしているというのです。核になっているのは特産の椰子の葉で島民がつくり続けてきたかご、パーリャバッグ。しなやかで使いやすい自然素材のそのかごを多くの人に知ってもらいたいと、かご作りを体験してもらったり、新しいかたちを提案したり。
「いいかごだし、すばらしい話です。ダニエラさんがやってらっしゃることをうまく見てもらえたらいいな、と思いました。ただ私はもう『えーっ!』って驚かれるぐらいの年齢で、現地には行けない。それはちょっと残念だったけれど、マヨルカ島に行くという金属造形家の金森正起さんにカメラを預け、撮影をお願いしました。いい写真をたくさん撮ってきてくれました」。
京都に家を持ったこともきっかけに
また、4年前に京都に家を持ち、2年前にショップ(
イオプラス)を持って京都に通うようになったことも今回の「アルネ」には大きくかかわっています。杉山早陽子さんの今の時代にあった和菓子の記事も、とびきりおしゃれで仕事熱心な『BARBER HIGUCHI』の記事も、京都がなければ始まりませんでした。
出会いは重なります。
「ちょうど今年、デザイナーの小野塚秋好さんが手がけるZUCCa WATCHが20周年を迎え、これまでの時計の写真を撮らせてもらえることになったのもラッキーでしたね」。
不安のなかスタートした「アルネ」でしたが、終えてみたら今だからできる「アルネ」だったと大橋。
「ちょっと意識しすぎて縛られているかもしれません。もうちょっと勝手な方が楽しいかも(笑)。でも私なりにいろいろな経験があったからつくれた1冊だったと思えたのは大きい、よかったでした」。
「ならば、さらにもう1冊続けてほしい」と頼んでみたのですが
「いえ、今はへとへと(笑)。もう絶対にない。だから『アルネ・もう1回』とタイトルをつけたんです」。
(続く)