「どうするのこれ?」
『わたしのお買物』は2010年に出版した『もののお買物』の続編ともいえる本。シャツ、ニット、バッグ、パールなどファッション関連のものから、椅子、ランプ、湯のみそして水切りトレーなどキッチン用品に至るまで、前作以降、大橋が買った約50のアイテムが、自身が撮影した写真と文章で紹介されています。
「買物は個人的なことだし、見てもらうために買ったのではないんです。なかには『どうするのこれ?』というものもなくはないし(笑)、それをおおやけにするのもなんかなぁ、と思ったりもするんです」と本人からはやや消極的な発言も。でもページをめくっていくにつれ、大橋にとってものを買うということは、格闘技なのかもとも思えてきて、ついついぐいぐい読み込んでしまう内容なのです。
いろいろ足りた後の買物
「買物が好きで、これまでも買えるものは買ってきたので、生活道具はけっこう足りてきているんですね。買いたいものがあっても間にあっていて、それがちょっとさびしい(笑)」。そう語る大橋が本の中で紹介しているのは、それでも欲しいと思ったもの。暮らしていく上で必要ではないかもしれないけれど、「ただただ一次元的に自分が欲しいということで買った」ものだと言います。でもそれこそがこの本の魅力のひとつになっているように思えます。読んでも役には立たないかもしれないけれど、読む側も歳を重ねるうちに役に立つものはすでに持っているわけだし、自分で見つけるから教えてもらわなくても構わない。逆に個性的である意味わがままな、“いろいろ足りた後の買物”の話は、とても楽しく刺激的。そして時にちょっとじんわりさせられます。
ひとりの本づくりが合っている
『大人のおしゃれ』や『わたしのお買物』をはじめ、アルネブックスシリーズは大橋が編集から撮影、原稿までひとりでやって発行しています(ショップ情報の確認などはスタッフが担当しています)。たいへんだけれど、自分には合っているスタイルと大橋。
「人に強く言えない。したいことはあるし、嫌なこともあるのに人に伝えるのに時間がかかる。やりなおしも多い。でもひとりなら自分のペースでやりなおしもできるでしょう」。
大橋が撮影を始めたのは「アルネ」を創刊した2002年。故柳宗理さんを取材撮影させていただけることになり、長年の友人のカメラマンに依頼したところ「そういう本をつくりたいのであれば、自分で撮影するのがいちばん」とアドバイスされたのがきっかけ。もっとうまくなりたいと一日カメラ教室に通ったこともあるけれど「手ブレのないカメラを買い、三脚を使ったり、脇をしめて撮影したりすることでブレは改善されたけれど、写真はフラットで下手なまま」と大橋。「まっいいか、と思っちゃうんです。ただ、自分がどういう風に撮りたいのか、どうしたら一番よく伝えられるか、物の置き方は考えている。それだけなんです」。
今回の『わたしのお買物』も自分が好きで買ったものが、どんな状況でどの角度から見るのがいちばんいいか、大橋は「きもち悪くない置き方」が見つかるまで探して撮影したそう。
背景になるのは家の壁やテーブル、ハンガー、床、手持ちの布やそのとき読んでいる文庫本。「撮影スタジオを借りるお金もかけられないので」と言うけれど、持ち主の生活の場で、持ち主の視点で撮影されることで買ったものがすっと目に入ってきます。
まだ進行中の話はそのままに
一方文章は「とても苦手。伝えたいことをなかなか書ききれず、何度も書き直したり、つながりを変えたり」と大橋。なるほど今回の本も、確かに読んでいるうちにあれ何の話だったっけ? とか結論はなんだっけ? 思うことがありました。でもたとえば買ったものと大橋の関係が始まったばかりであれば、はっきりした結論が出ないことのほうがうそがありません。毎日の暮らしの中で急がねばならないことは他にもあるし、いろいろな感想を積み重ねる中で何かが見えて来たり、見えなかったり。買物のいい訳を考えたり、買いたいものを買って元気になったり。読みたいのはそんな、日々格闘している暮らしを伝える本なのだと気づきます。買物の本は買物に留まらないのです。
※ご紹介した『わたしのお買物』は
こちらから購入していただけます。また、全国の書店でもご覧いただけます。