「どうやってつくるの?」
はやしのりこさんのバッグ『球』を見たとき、最初に思ったのは「すごい!」そして「でもこれ、どうやってつくるの?」でした。
球体の、大きな卵のようなバッグは、パッチワークでできている? でも縫い目がないからパッチワークではない? ミシンステッチのぐるぐるはどうやってかけるの? と。
ひとつずつかたちも布(きれ)も違う。表だけでなく、中の布もそれぞれ違う。違う布かと思いきや同じ布で、糸の色で違って見えるものもある。なかには物を入れづらいくらい口が小さいバッグもあるけれど、かたちがきれいだからそれでいいような気もしてくるし、弥生式土器みたいに自立しないけれど、バッグって生活の中で立たないといけなかったんだっけ? と改めて悩んだりもして。
そんなたくさんの「?」が、はやしさんのご自宅を訪ね、お話を伺って解決しました。そしてこれは買わねば、と結論が出ました。
好きなものだらけの家
はやしさんの家のドアをあけるとそこには、小さな古道具屋さんのような世界が広がっていました。壁や棚に所狭しと並んでいるのは、旅先やのみの市などでみかけ、持ち帰らずにはいられなかったものばかり。古びたバッグやかご、錆びたマドレーヌの焼き型、眼鏡のフレームを切り出した後のプラスチック板……。ひとつひとつとの出会いをたずねていると、ものと一緒に時空を旅するようでわくわく。なかなか前に進めません。
ようやくアトリエにたどり着くと、ミシンを据えた大きな作業台を取り囲むように、きれや革、写真、絵、本、またまたバッグなど、作品づくりにつながる素材がびっしり。
「見えないとだめだから、目に入るようにしてあるんです」。旅、趣味、暮し、仕事。好きなことと暮しの糧が有機的に重なり合っている毎日は、たいへんかもしれないけれど、ちょっとうらやましい。
布コレクションはボーダーレス
今回の展示でご覧いただくバッグは、写真の『球』をはじめ、3タイプ。そのどれもがはやしさんの布のコレクションとミシンワークからできています。
使った布は代々木公園のアースデイでみつけたアフリカのプリント、タイのストリートマーケットで買った少数民族の衣裳、ジム・トンプソンのインテリアファブリック、日暮里の生地屋「トマト」の掘り出し物の帆布、浅草橋の問屋街で買い占めた目のさめるような蛍光ナイロン、お母さまが着ていたスーツをほどいたツイード、ヨーロッパの軍モノのブランケットなどなど。ボーダーレスで、あげればきりがありません。さらに『球』には特別に必要な材料があります。風船です。
風船からはじまる
なんと「作り方1」は、風船をふくらまして中に重石代りに水をいれる、だと言います。「作り方2」はその側面にバッグの内側になる布を貼っていきます。布は不定形に切り、ボンドをごくごく薄めて、カーブに添わせて、少しずつ重なるように貼ります。内布をぐるりと貼り終えたら次に固さを出すために、晒や古い浴衣の布を同じように2、3層重ね貼りして、最後は表生地です。
ボンドが乾いたら風船をはずすし、布が剥がれないよう、歪みが出ないよう、だましだましステッチをかけていきます。腕ミシンに差し込み、底まで見えないときは、懐中電灯で奥を照らしながら。布もミシンも好きでそれを中心に作品製作をしているはやしさんにとっても、今回はたいへんな作業の連続だったよう。
「でも、できたものがよければ、布もステッチも過程も、なんでもいいんです。おもしろいと思ってもらえれば」とはやしさんはきっぱり。「人が持って歩くと絵になるバッグ、その人とそのバッグがお互いに映えるものがつくりたい。『持っていると声をかけられる』と言ってくださるとうれしいですね」
用の美よりつくりたいかたち
美大を卒業し、陶芸や舞台衣装制作などを経、バッグを初めて展示したのが20年前。その頃から球形のバッグをつくりたかったけれど、なかなかうまくいかず、完成に至らずにいました。それが今回実現したひとつのきっかけは、大橋の「へんなものを(つくってください)」という言葉だったそう。
「ただ、イメージする球に近づけると口が小さくなって、大きいものが入らない。入っても出すときは抽選ですよね。手を入れて、『これ何かな?』って(笑)。バッグ屋としてはちゃんと使えるものをつくらないといけないのでは、と悩みました。でも最終的には“用の美”よりつくりたいものを優先しました。こういうのもあっていいんじゃないか、って」。個人的な感想ですけれど、バッグを超えたバッグ、いいと思います! 使い方はこちらで引き受けます。
*ご紹介したバッグはすべて1点もので、受注製作はしておりません。ご了承ください。