特集 小鉢さんちのおおらかな暮らし
 
第3話 カッティングボード工房を見学
木は最初の出会い以来、『たぶの木』を使っています。水に強いことから昔は舟材に使われていたそう。刃が当たっても堅すぎず柔らかすぎず、カッティングボードに向いていました。偶然です!
  • カッティングボード第1号。直径は30㎝近く、厚みも4㎝ほど。バーナーで焼いてヤスリをかけたどっしりタイプ。小鉢家では大小さまざまがお皿かわりに使われています。
  • コックピットの壁には工具と並んでこれから形にしたい作品を構想するための素材やメモも貼ってありました。台の右側にあるのが木屑吸い取りマシーン。
 小鉢家訪問で、イタリア仕込みのピザと同じかそれ以上に楽しみにしていたのが、カッティングボード工房の見学です。
 工房はアトリエの小屋の一隅にありました。椅子を囲むように「コ」の字型に作業台を設置。台の上や壁には必要な道具や電動工具がすぐ手に届くよう配置されています。間口は2mちょっと。コックピットのようでかっこいい。道具のほとんどはホームセンターで調達。製作中は木屑まみれになるそうですが、その木屑を吸い取るマシンを、「水まき用のホースを使って作ったんです!」とちょっと自慢げに紹介してくれました。
 小鉢さんがカッティングボードを作るようになったのは、偶然が重なってのこと。ここに住み始めて数年経った頃、近所の方が「神社の境内の木が台風で倒れてしまったんだけど、何かに生かせるならどうぞ」と声をかけてくださったそう。大きな老木の『たぶ(椨)の木』でした。『たぶ』はクスノキ科の高木で、日本に自生し、鎮守の森の木として大切にされ親しまれてきた木のひとつです。「ただ彫刻に使っている木ではなかったので製材所で挽いてもらい、床や階段を張り、そしてテーブルを作りました。その時妻にカッティングボードもリクエストされて作ったのが最初です。うちを訪ねてらした大橋さんがそれを見て、私も欲しい、他にも欲しい人がいるに違いない、ということで後にギャラリーでも扱ってくださることになったんです」。以来サイズや形をいろいろ工夫して、今まで作った数は1000枚以上。「顔を知らない人が使ってくれているんだなあ、と思うと感慨深いですね」。
 
[ 1 ] 製材所でほどよい厚さに挽いてもらった『たぶの木』を天日干し。2年ぐらいかけて乾かします。
[ 2 ] 板目や虫食いなどを確かめ位置を決めカッティングボードの原型を切り出します。
[ 3 ] 糸鋸盤で持ち手の部分を切り出します。しっかり持ちやすい長さです。
[ 4 ] トリマーで縁取り。形がみえてきました!
[ 5 ] 「銀杏」と呼ばれる、家具などによくある縁取り。「当たり前だけれど、洗練されたトリミング」と小鉢さん。
[ 6 ] グラインダーややすりをかけて表面の縁の荒いところをなめらかにしていきます。板の厚みは最終的に3㎝ぐらいに。実際使ってみるとほどよい安心感があります。
[ 7 ] 厚い鉄板の上に置いてがたつきがないか確かめ、平に仕上げます。大丈夫そうです。
[ 8 ] 持ち手に穴を開け、サイザル麻の紐を通して結びます。飾りにもなるし、便利です。
[ 9 ] 一枚完成しました。もう一度手で触って確認します。
 小鉢さんのカッティングボードは、オイル仕上げをしていません。オイルを塗って使いたい人はそうして欲しいし、何かしみてもそれが味、と感じる人にはそうして使って欲しいと言います。小鉢さん自身毎日のように料理をするし、食べることに興味があるから、いろいろ使い方をイメージして作るけれど、どこか不完全のまま、余白を残して買ってくださる方に渡したいと思うのです。形もひとつずつ違います。「木は自然のものだから、節や虫食いがあります。それを避けて同じサイズにしようとするとむだがたくさん出てしまう。作っていても楽しくないんです。逆に持ち手が少しどちらかにずれていたり短かったりしても、使う側が工夫することで道具との関係性も生まれてくる。それもいいんじゃないかな、と思って」。実際小鉢さんの家のカッティングボードは使い込むうちに角がとれ、ひび割れているけれど、「これも自然のデザイン」と小鉢さん。
「かたかたしてきたら近所の大工さんにカンナをかけてもらうとか、そういうのも楽しいような気がします。でもそうそう近くに大工さんは見つからないから」。木の自然を生かしつつ、おおらかに、でもなるべく使いやすく。小鉢さんは何度もかたかたを確かめます。
「でも、ここ、雑然としてるし、道具はホームセンターで、なんていうと買ってくれた人ががっかりしませんかねぇ」と少し心配顔の小鉢さん。雑然、と言えばそうかもしれないけれど、居心地がよくて飽きないし、道具の飾り気のなさに気持ちがほぐれます。それこそが小鉢さんにしか生み出せない塩梅で、作るカッティングボードにもつながっている?実際使っている方から「どんな器にもあわせやすい」「一枚あるとテーブルがなごむ」というようなお話を伺うことがあります。工房を見学してその秘密がちょっと解けたような気がしました。
 
  • [ 1 ] 板の厚さは2㎝ほど。切り出した原型からノミと木槌でくぼみを掘り出します。木べらが固定できるよう作業台を工夫しています。
  • [ 2 ] くぼみ専用のグラインダーで表面に磨きをかけます。カッティングボードより細かな作業のように見えます。
  • [ 3 ] 手で握りやすいよう、柄を削って細くしたり、角を取っているところ。最後の仕上げはグラインダーで。柄は長めで調理に便利。
  • [ 4 ] 少しずつ形が違いますが、角の出っ張りが鍋はだに気持ちよく沿うよう、大事な角度を確認します。
 木べら作りの工程も見せてもらいました。材料は同じ『たぶの木』。一カ所角が出っ張っているタイプは、小鉢さんが使っていいなと思った北欧の木べらをモデルにしています。実際月夜ちゃんが使っているのをみたらとても便利そう。欲しくなりました。
 
ページトップ