ピカピカ光らない
秋野ちひろさんは、真鍮(しんちゅう)を使ってオブジェやアクセサリーを制作しているアーティストです。真鍮は身近なものだと金管楽器、機械の部品などに使われている素材。5円玉も真鍮だそうです。銅と亜鉛の合金で、英語だとbrassになります。“ブラスバンド”はここから由来しているのだと秋野さんに教わりました。
でも楽器や機械の部品はどれも光っていて、きちんとしていて精巧にできているイメージ。なのに秋野さんのつくるものは、かたちがちょっと反っていたり、ゆがんでいたり、表面がいろいろに凸凹だったり。色も均一ではないし、ほとんどピカピカしていません。
金属は柔らかい
秋野さんはそれが好きなのだと言います。素材となる真鍮の板を糸鋸(いとのこ)でカットすれば指示通りにきれいに切れるけれど、あえて金切りバサミを使うのは「ハサミのぎゅっと切ったタッチ、にやっという線が好きだから」。
「紙で作ったラフなもの、紙立体のようなものを金属でつくってみたい。絵で例えるなら素描のようなことを、金属に置き換えてやってみたい」と言います。
そうしてできた真鍮のパーツを木の実やビーズなど異素材と組み合わせることもあれば、普通なら隠すつなぎ目が外側に出ることもある。接着剤として使う銀蝋(ぎんろう)も素材のひとつになります。
もともと秋野さんにとって、金属は固いものではなく、柔らかいもの。変化することが魅力の素材でした。美大の工芸工業デザイン科で金属を選んだのは、錆びた鉄の素材感が好きだったこと。そして固いと思い込んでいるけれど実は熱を入れれば溶けたり、叩くと柔らかいと思うぐらいの感触になる素材であることにひかれたからでした。
いっしょに冒険をする
「アクセサリーとオブジェの境界が曖昧で、ぎりぎりのものをつくっていると思います。金属のかけらのようなものもあるし、つけづらいだろうと思うものもある。自分としてはそれがいいとしているけれど、つけていただけるとほんとうに嬉しくて、勝手に同志みたいな気持ちになってしまいます(笑)」。そんなお話を伺って納得しました。つける側もつくり手といっしょにぎりぎりの冒険をしている気持ちになれるのだ、と。
確かに秋野さんのアクセサリーは、アクセサリーらしいたたずまい、決まったかたちをしていません。だから最初は「不思議なかたちだ、なんだろう?」「なんかくっついているぞ、なんだろう?」とかなり揺さぶられます。でもすぐに「なんだかおもしろい、つけたら楽しいかも」という気持ちに変わっていく。それがなんとも快感なのです。
秋野さんは今注目の作家です。今年はイオショップ&ギャラリーも含め、10か所で展示を行いました。でもここに至るには、ちょっと回り道もし、時間もそれなりにかかったようです。そのあたりのお話は、第2話で。秋野さんが撮影してくれたアトリエの様子とあわせてご紹介したいと思います。
※今回展示するアクセサリーはブローチ、ネックレス、ブレスレット、ピアスなどで、すべて一点ものとなります。価格は¥5,000〜¥18,000前後を予定しています。