秋野さんならではの凸凹
来週10月27日(木曜)から始まる「秋野ちひろさんの真鍮(しんちゅう)のアクセサリー展」。第2話では、製作のようすをご紹介したいと思います。写真はアトリエでご本人が撮影してくださいました。秋野さんは、真鍮の平らな板からいろいろなかたちの「かけら」を切り出し、それを叩(たた)き、やすりをかけ、焼いたりつなげたりしてオブジェやアクセサリーをつくりあげていくのですが、なかでもメインとなるのが「切り出し」、そして「叩く」。このふたつの作業だと言います。
最初の写真は、切り出した真鍮のかけらを金槌で叩いているところです。細長い真鍮の下半分はまだ叩いていないので表面がつるんとしています。一方上半分は叩いた後。叩いてできた凹凸が重なり合って、そこに見飽きない光景が広がっています。
金属を叩くことは金属工芸・加工では一般的な技法ですが、叩いて浮かび上がってくるテクスチャー(表情・感触)には個々の作り手のめざすものが現れます。使う道具にも作り手それぞれにこだわりがあるのだそう。
荒らし鎚・金床
例えば通称「荒らし鎚(あらしづち)」と呼ばれる金槌は、よーく見ると叩く面に細かな凹凸の鎚目(つちめ)があり、打つたびにその鎚目が真鍮に転写されていきます。作家はまずこの槌目をそれぞれ金槌に刻むのです。真鍮を置いている土台(金床・かなどこ)も同様です。
秋野さんが使う荒らし鎚は2本。これはかなり少ない本数です。一方金床は、すでに使い込まれ摩耗し凹凸や筋が残っているものを専門に扱う古道具屋に足を運び、探して使っていると言います。きれいで均一な凸凹は望んでいないのです。
同じ道具を使っても叩く回数によってテクスチャーは違ってくるでしょうし、「ここで打ち止め」と決めるのがセンスとも言えます。かくして窓の外に小学校の校庭を臨むアトリエで「きーん、きーん」と秋野さんが叩く真鍮は、秋野さんならではの凸凹をしているのです。
かたちを切り出す
凹凸と同時に秋野さんの作品を印象づけているのが真鍮の板から秋野さんがハサミで「切り出す」かたちです。このかたちはどこから来るのだろう? でも「素描のようなことを金属に置き換えてやってみたい」・「完成予想図に向かって進むことはなく、手を動かしながら『ここかな?これぐらいかな?』とそのときどきで判断を重ね、ひとつのものを作り上げて行く」と話す作り手に、そのかたちの意味を問うのはなにか違うように思え、質問をしないでしまいました。
ただ、好きなものや影響をうけた方の話をしてくださった言葉から、秋野さんが今めざしていること、つくりたいと思っているもののイメージがなんとなく伝わってくるように思えたのでそれを紹介させていただきたいと思います。例えば、日本民藝館で開催された『つきしま かるかや』展で見た室町時代の絵巻の「ぼかんとおおきな感じ」や「下手だけれど楽しくて、きもちのいい線」。オノ・ヨーコさんの詩集『グレープフルーツ』の強い言葉。彫刻家青木野枝さんのつくる鉄の彫刻の自由さ・軽やかさ。ディース・ホールのオーナー土器典美さんの「アートでもありインテリアでもあり生活の雑貨でもある」ものへのぶれない想い。そして最近家族になった猫のぶん太の、焦りも悲観もせず今を生きる様子——秋野さんの製作風景はInstagram
「akinomorning」でも垣間見られます。光のきれいな写真がアップされています。ぜひご覧ください。
次週第3話では、今回展示するアクセサリーのなかから何点か、実際つけてみた感じをご覧いただきたいと思います。どうぞお楽しみに!