イオプラスの活力
バッグ作家の江面旨美さんは、京都のイオプラスにとって特別な人です。2014年8月にイオプラスがオープンして以来、月に2点ずつ、休まず、バッグをつくって届けてくださり、それを販売させていただいてきました。年に1、2回の個展を軸に製作をなさっている江面さんのバッグを、継続して置いているところは他にありません。それだけに「今月の江面さんのバッグ」を楽しみにしてくださるお客さまも多く、それはイオプラスの大きな活力になってきました。
大胆なバッグが揃います
その京都で、初の個展をさせていただくことになりました。今回はどんなバッグに出会えるのか、umamibagがずらりと集合したイオプラスはエネルギッシュになるだろうな。わくわくしているところに江面さんより「ほぼ完成しました」との連絡がありました。製作が一段落したところで、この特集の取材のお願いしていたのです。
いち早く新作情報をお届けしたい。今回のテーマを伺いたい。そう思って東京郊外にあるアトリエを訪ねたのですが、バッグを見せていただき、困りました。「どれにしよう? これが欲しい」とすっかりお買物モードになってしまいました。
バッグから連想する形を超えたフォルム、江面さんらしい極太の持ち手、思わず手で触れたくなる革…。悩ましいバッグが45点。「その魅力は、デザインが大胆で、手作りで、一点もので、素材もとびきりよくて、他にはないものだから。と魅力を言葉に置き換えましたが、この言葉で全部じゃない」(2009年刊『
アルネ30号』より)という大橋の言葉が思いだされました。
アトリエ訪問
江面さんはご自宅の一郭をアトリエにしておいでです。作業台と、ミシンや革をすく機械などが縦に2列になっていて、その間に置いた椅子に座ってバッグづくりをしています。決して広くはないスペースで、「雑然としている」とおっしゃいますが、いろいろな道具が仕事がしやすい位置に、江面さんのリズムで配置されているように思いました。
とにかく道具がたくさんいるのだそうです。
例えば革を縫うときは、まず革に目打ちで革に穴を開けます。革は硬いから直接針は通しません。穴の大きさは、革の厚みや種類、デザインで変わってくるし、革を痛めたくないから、目打ちひとつで10種類以上を持っていないと仕事になりません。
BGMは江戸前落語
「道具がたくさん必要でお金がかかるから、革のバッグをつくろうという人は少ないんです。だから競争率が低いというか、なんとかやっていけるかな、と思ったんです」。これは江面さんにバッグを始めたきっかけを尋ねたときの答えです。「道具を揃えたから簡単にやめられないんです」ともおっしゃる。なぜバッグをつくっているのかと尋ねれば、「服に比べて季節がないし、器と違って送っても壊れない。売れなくても自分で使えるし」。
江面さんは「いろんなことの理由や哲学は後付けで、案外現実はそういうことだったりするんじゃないか。直にやっているときは埋没しているから俯瞰して見ないですしね」とおっしゃいます。確かにそういう面もあるかもしれません。でも、わかったように話したり、かっこつけるのはかっこよくないという心構えのようなものもあるのだと思います。江面さんの作業のBGMは江戸前落語。仕事をする時は濃紺の作業着姿。背もたれがない椅子で針を持つ江面さんの背筋はすっと伸びています。
窮屈はやめて、工程を楽しむ
趣味でバッグづくりを始めてから30年と少し。雑誌で取り上げられて大量注文が殺到。それをこなすのに2年かかってしまいには抜け殻のようになってしまったり、なんとか目立とうとしてコンセプトやテーマを全面に打ち出し、自分を追い詰めてしまった何年間があったり。そんなだめだめな時期もたくさん経て、ようやく好きなことをやろうと前に進めるようになったという江面さん。今大事にしているのは、まずはいい革、好きな革を手に入れること。それをどうしようかな、どういうかたちにしようかな、と考える工程がとても楽しいと言います。
「すごく窮屈な思いをしてコンセプトにはめ込むことをしなくても、まっ、いいかって。今回もテーマはこれ、と決めずに製作してきました」。経験に裏打ちされた「まっ、いいか」も「決まりはなし」も、かっこいいなあ、と思っていると、ちょっと間をおいて江面さんが続けてくれました。
「ただね、元気にさせてくれるバッグをつくっていきたいとは思っています」。
元気になれるバッグをつくりたい
「自分が歳をとって負の面がいろいろ増えてきて、今、自分ががっかりしているんですね。ああこんなにたるたるになっちゃった(笑)、とか、親の愚痴を背負い込んじゃったりとか。だから着るものや、言動、アウトプットするものに少しでも元気な要素を盛りこみたい。恥ずかしいとかは一切排除して。少なくとも、自分が深く携わっているバッグについてはつくったり持ったりすると元気な気分にさせてくれるものをつくっていこうと思っています。ものからもらう元気があるかもしれない、と。だから『元気が出るから持ってみたいです』と言ってくださる人がいたら、すごく嬉しい。私も元気になれるんです」。
そんなお話を伺うだけでも元気になれた取材チームでしたが、お手製のお汁粉もごちそうに。すっかり充電させていただきました。次回の個々のバッグ紹介にも力が入ります。ご期待ください!