オブジェ+ジュエリー
「4月に展示をさせていただく
吉良(きら)ゆりなさんのブローチ。いいでしょう?」そう言って大橋が大事そうに見せてくれたのは、この特集担当がこれまで見たことのないアクセサリーでした。
四角や丸、幾何形体を連ねたシンプルなのに無限を感じさせるデザイン。人工的なアクリルと天然木の、対照的な素材のコンビネーション。見る角度を変えた時に際立つ光と陰、そして立体感。手に載せた時の拍子抜けするほどの軽さ。吉良さんのブローチはゆさぶりと発見がいっぱいのまさにアートのような存在。身につけると楽しいのはもちろん、見るだけでも楽しい。ご本人が名付けたとおり、まさに『オブジュエリー』なのです。
おしゃれな人に似合うブローチ
大橋がはじめて吉良さんのブローチと出会ったのは、4年ほど前のこと。
『大人のおしゃれ』で撮影をさせていただいた方が胸に小さめのをひとつつけておいでで「すてきだな」と印象に残ったそう。そのときはそのままになってしまいましたが、それから3年後熊本で再会を果たします。
a.の展示会をさせていただいている
『ギャラリーmoe』と同じビルにあるデザイン事務所のスタッフと、熊本在住の吉本由美さんが胸につけていたのです。聞けばその少し前に『moe』で開催された吉良さんの個展で選ばれたとのこと。それぞれとてもよく似合っていたと言います。
吉良さんのブローチは、特別感がありながらカジュアルな服にも似合います。オブジェの一面を持ちつつアクセサリーとして身につけたときのバランスはちゃんと計算されているのです。これならa.のファンの方にも喜んでもらえるに違いない。大橋はそう確信して吉良さんをご紹介いただき、
イオグラフィックでも開催していただけることになりました。
でも、この『オブジュエリー』の発想はいったいどこから生まれてきたのでしょうか。
スイスの山々とヨーロッパの建築物
吉良さんはテレビの美術制作会社でイラスト、グラフィックデザイン事務所でデザインアシスタントとして働いた後、ミラノの美術学院へ留学、13年間をイタリアで過ごします。はじめは絵画を学びたいという思いでしたが、次第に建築に夢中になり、イタリアそしてヨーロッパ中の建築を見て回るように。つくるものも平面から立体へ、絵画から木を使った
壁面作品に変化していったと言います。壁面のモチーフになったのは吉良さんが建築とともに大きな影響を受けたスイスの山々の自然でした。
「親しい一家のスイスの山の家をベースにアルプスの山々を歩き回りました。ほんとうに広大な自然がそこにはあって、その空気感を表現することはかなわない。でもふと足元に目を移すと転がっている石ころもまたきれいで、その時にはっと思ったんです。小さな石があわさって山になっているように、小さなかけらから広がりのある世界につなげていけるんじゃないかって」。
大きな広がりをもつ小さなブローチ
吉良さんのアクセサリーはその壁面作品の延長線上にあるものです。つくりはじめた直接のきっかけはイタリアで開催した壁面の個展の際、ご自身がつくって胸につけていたブローチがお客様に好評でリクエストされたこと。
「喜んでもらえるならと始めてみたらおもしろくて。サイズ感が自分にあっていたのでしょうね、はまってしまったんです」。
素材に選んだのは慣れ親しんだ木材とアクリルや塩ビの板。そこにも吉良さんのこだわりがありました。
「おおらかで温かみのある自然素材と発色がよくて“軽い”人工素材の対比がおもしろいと思っています。どちらもどこにでも入るフラットでさもない素材ですが、自分が何かすることで個性が生まれるところにひかれます。最初から付加価値のある素材には興味が持てなくて」
アクリルはとても繊細な素材
いちばん大事なデザインのことは絶えず頭のどこかにあるし、デザインに沿って素材をカットし、研磨し、つなぎあわせ、調整していく作業を1点ずつこつこつとほとんどひとりで積み重ねていきます。
アクリルはとても繊細な素材だし、アクリルと木材という異素材の接着も完成度をあげたいと望めばそれだけはりつめた作業が続きます。
「緊張感のもとにつくっています。アクセサリーなのにうっとおしいですよね、いろいろ言って(笑)。ほんとは軽やかな気持ちで「これ好き」というだけでつけてもらえるのがいいんですけれど、すみません(笑)」。
いえいえ、その緊張感こそが吉良さんのアクセサリーの魅力のひとつのように思います。
今回展示させていただくのは、大きめのブローチ(オブジュエリー)と、小さめのブローチやピアス約130点。
「a.の服を無意識のうちに意識しているからか、ドットが多めのデザインになっています」と吉良さん。
第2話では実際の作品をたくさんご覧いただこうと思います。ご期待下さい!