出会いは「ホームスパン」の
撮影でした。
中川清美さんには、「大人のおしゃれ11(春と夏‘15)」に「ホームスパン」の服を着てご登場いただきました。撮影の際、服にあわせてつけてくださったのが、ご自身が作ったアクセサリー。どれもとてもよくお似合いでしたが、なかでもボトルの形をした大きなブローチはインパクトがあって印象的でした。中の文字も素敵だけれど何だろう?と気になりました。伺えばこのブローチは新作。しかもシリーズで作っておいでとのこと。さっそく見せていただくとどれも楽しい!それがきっかけで今回イオショップ&ギャラリーで展示をさせていただくことになりました。
大きいものだと10㎝角を越えるブローチは一見むずかしそうですが、つけてみるとおしゃれのじゃまをしません。それはきっと「服が大好きで、アクセサリーを作るときはいつも服とあわせたときのことをイメージしながら」とおっしゃる中川さんの思いがベースにあるからです。
めんどうななかに発見がある
つるんとしていてぺたんこでちょっとゆがんだかんじが魅力のボトルの素材はレジン(樹脂)。レジンは主剤と硬化剤を混ぜあわせることで最初液状だったものが固まっていきます。型を作ってそこに流し込めばオリジナルなフォルムが生まれるし、透明なレジンであれば中に好きなものを好きにアレンジして包み込むことができます。
中味とフォルムのベストマッチを追求し、アクセサリーの完成に至るまで中川さんはすべての工程をひとりでこなしています。レジンの取り扱いだけでもとても繊細で時間のかかる作業の連続。それを30年近く続けているのは「ある程度かたちになるまでずーっと繰り返すタイプだから」と言います。「めんどうかもしれないけど、どこかを誰かにやってもらいたいという気持ちが全然ないんです。めんどうなのが楽しいし、めんどうななかで発見することもたくさんあるんです」。
古い領収書を“素材”に
今回ボトル型のレジンに包み込んだのは、1950年代頃のヨーロッパの古いレシート(領収書)。中川さんがパリの蚤の市を何度も往復して厳選したものをコラージュした作品です。そう言われればお店のロゴや住所らしきもの、そして日付のスタンプなども見えます。でもなぜ領収書を?
「アンティークのビーズやスパンコール、レース、リボン、切手といった素材が大好きで、これまでもレジンのアクセサリーにたくさん使ってきました。旅にでかける目的は素材探しだし、ピンと来るものがみつかると嬉しい欲しいとなります。領収書も蚤の市をぐるぐる回っているときに目について気になった素材のひとつなんです」と中川さん。
「大きい文字の下に小さい文字があったり、数字があったり、お店のロゴが入っていたり。領収書ってちゃんと1枚のなかでデザインができているんですね。ペンで書き込みがあったりするのもいい。だからコラージュしてブローチのまん中のモチーフにしたら絶対かわいい、とイメージが浮かびました。これまでいろいろな素材をレジンで包んでアクセサリーを作ってきましたが、最近は大きなブローチがつくりたい気分で。なんとなく領収書とボトルの形が結びついたんです」。
旅の思い出はコラージュしません
大きめ小さめ長細いの丸っこいの。紙粘土で作ったボトルは全部で8型。ていねいに形を整え、それをもとにシリコンで凹型を成型しました。一方領収書のほうは紙の色も書体もさまざま。でもどれも甘ったるい感じがしません。もともとの用途がオフィシャルなものだったり、文字のラインを横にすっと通して強調しているからでしょうか。でもそれだけではなさそうです。
「ちょっとしたことなんですけど、同じように見える領収書でも使えるのと使えないのがあるんですね。だんだんわかってくると使えるのだけ見えてくるようになります」と中川さん。「旅の思い出をコラージュして残したいとか、全然ないんです。自分が旅行したときのチケット類にも興味がなくてなんでもポイポイ捨ててしまいます」。パリに行っても蚤の市を回って素材を探すだけ。「他に楽しいことがいっぱいあるのにもったいない、と言われます(笑)。結局ものを作ることに関連することにしか興味がないんです。それがいちばん好きなことだからいいんですけれど、生きてるうちに集めた素材を全部使い切れるか、それが課題ですね(笑)」。