織りやデザインはシンプルに
イオショップ&ギャラリーで竹崎万梨子さんのストール展を開催するのは昨年12月に続き、2回目になります。前回から1年の間につくったストールの枚数は約30枚。数だけ聞くと少ない気もしてしまいますが、羊から刈り取ったままの原毛(フリース)から始める一連の流れを想像すると、よくそれだけの数を、とすぐに思い改めました。
フリースについた土や枯れ葉を洗い落として干し、均(なら)して紡いで蒸して染めて糸をつくって、それを機にかけて織って織り終えたらまた洗って。すべてをひとりで行なうそれらの作業は、単に手や体を動かすだけでなく常に五感を働かせて進められます。デザインを考えたり、糸の太さや使う染料の量を決める計算や実験も伴います。
「原毛からのものづくりはさまざまな要素をふくんでいるからこそおもしろい」と竹崎さんは言いますが、やっぱりこれは腹をくくってやらないと続けられないこと。
「自然に育った羊の毛にはパワーがあるし、意味がある。作るとき感じたパワーを壊さないよう邪魔しないようにしたいと思うと、織りやデザインはシンプルになりますね」。そう語る竹崎さんのストールは、どれもスマートかつ力強い仕上がり。身につけると気分があがるし、巻くことで動きが出るとぐんと魅力を増します。
まるまる1頭使い切る
今回竹崎さんが最初に手がけたのはコート代わりにもなる大きな3枚のストールでした。
「ジャコブというイギリスの羊の原毛を1頭分手に入れる事ができたんです。4kg近い包みをあけると牧場の匂いがしてのびのび育った羊だなあ(笑)と感じました。素材をまるまる使い切って料理するようにやってみたい、羊毛の力が伝わるようなストールをつくりたいなあ、と思いました」。
ジャコブは古くからいる品種で、羊には珍しくこげ茶と白の斑模様をしています。まずは原毛を洗って白と焦げ茶に色分け。それぞれの糸を紡ぐところから始め、完成したのは緯糸をたっぷり入れた白、白と茶の大きなブロック、そして白と茶の山模様のストール。どれもナチュラルカラーのままです。
もしお時間のある方は、ジャコブを画像検索してみてください。大きな角が2本、4本、6本と生えた、斑模様のもこもこした毛で覆われた羊が出てきます。勇猛なのかな? でもかわいい!
「羊を堪能したというか、この3枚を原毛からじっくりつくったことで、逆に洗毛された原毛を入手し色を染めることもすごく楽しめた」と竹崎さん。それらは第2話でご紹介するとして、第1話ではジャコブをはじめ、ナチュラルカラーのストールの魅力を写真でお伝えできたらと思います。竹崎さんが制作過程で撮影した写真は、つくり手でなければ体験できない美しい瞬間を伝えています。また、偶然イオショップを訪ねてくださった十河さとみさん(「大人のおしゃれ7」で登場いただいた)にモデルをお願いすることができました。素敵に着こなしていただき、ありがとうございました!
(左)白とこげ茶の毛糸をクロスさせ、大きな柄にしています。白い部分を出したり、茶色を目立たせたり。巻き方で雰囲気が変わります。72×245㎝
(右上)ジャコブの原毛を洗って色分けをした、ごく最初の段階です。原種に近い羊はこのように外側は硬い毛、内側は柔らかい毛と2層になっています。均一な糸をつくろうとすると手間がかかり大量生産向きではないため、どんどん貴重になっているそう。
(右下)クロス柄を織っているところです。手前は一定の幅に織り上げための伸子(しんし)、奥は経(たて)糸に緯糸をくぐらせるシャトル(杼・ひ)。
(左)白い毛糸だけで織ったストールです。織る時に緯(よこ)糸を打ち込んで緻密に仕上げていて、3枚の中でも特にあたたかく贅沢な感じがします。72×214㎝
(右上)織機にぐんと寄っています。白糸と言っても陽に焼けて黄みがかっていたり太さもさまざま。その自然のままが好きだしおもしろいし生かしたいと竹崎さん。
(右下)織り上がった後、洗って縮絨をかけ、完成した白いストールです。巻いて動きが出るととてもエレガント!
(左)白とこげ茶で山型の模様を描きだしました。フリンジも短く、マニッシュできりっとした印象。緯糸の打ち込みを軽く仕上げてあります。62×223㎝
(右上)こちらはジャコブのこげ茶のほう。つやがあって、色に深みがあります。
(右下)緯糸のくぐらせ方を変えて山型の模様を描き出す。根気のいる作業です。房の先についているのは経糸を張る際に使う導き糸。切り取らず残しているのがおしゃれ。
(左)コリデールという、グレーのグラデーションが持ち味の羊毛をメインにしてつくったストール。コントラストがつけたくて白のカシミヤや黒のメリノを足していますがすべて自然のままの色です。76×224㎝
(右)左のストールのために紡いだ毛糸です。毛質の違う羊毛をあわせることで、織り上がったストールに表情が出ます。「毛糸づくりがすべての要」と竹崎さん。
(左)シェットランドの子羊の原毛からつくったストールです。首元に2重巻きにしてみました。上品なだけでなく、毛先に動きがあり若々しい感じもします。34.5×154㎝
(右上)レースを編むのに使う、とても貴重な糸。その繊細さとナチュラルな色を壊さないようていねいに仕事を重ねてできた1枚です。薄手ですが、保温性があります。
(右下)紡いだ後、綛(かせ)からはずすと撚りが戻って糸がきゅっと立ち上がります。その様子を竹崎さんは
「糸の王冠」と名付け、ブログのタイトルにしています。