黒いおもしろいネックレス
「すごいねえ」「おもしろ~い」「変、ともいえるかたちだけど、大好き」。山田さきこさんのアクセサリーを前に、大橋は何度もそう言います。何度も見ているはずなのに、今回も山田さんから展示用に届いたアクセサリーの包みを開くと思ったらしい。「こんなかたちをつくれるってすごい!」
大橋は見たことがなくて楽しいものを見つけると、とてもうれしくなって買わずにはおれないタイプ(だと思われます)。取材で伺った名古屋のギャラリーで黒いネックレスと出会ったときも、瞬間的に「一期一会だ!」と即買い。そのうれしさを伝播したくて山田さんにご相談。京都のイオプラス、そして東京のイオショップ&ギャラリーでの展示を引き受けていただくことになったのです。
全部細(こま)編みでできている
まずは今回の展示のきっかけとなった黒いアクセサリーからご覧いただきたいのですが、確かに丸いような、四角いような、楕円のような、ねじれたような、不思議でいろいろな造形がつらなっています。近づいてみると、あっ!全部細(こま)編みでできています。素材は綿やシルクのレース糸や織り用の糸とのことですが、かぎ針で硬く、ぎっちぎちにきつく編んであってかたちがくずれません。これはおもしろいだけじゃない。つくるのはかなりたいへんに違いない、指が痛くないのかな?
おなじものはつくらない
山田さきこさんのアクセサリーはこれだけではありません。手かがりのボタンホール用の糸やミシン糸、タコ糸でつくったものもあるし、それらの糸をいろいろに組み合わせて使うこともある。使う糸によって完成したアクセサリーは大小さまざま。風合いもさまざま。モノトーン、ネオンカラー、カラフルと色あいも豊富です。
共通しているのは細編みでつくられていること。細編みから生まれるかたちが独特であること。そしてそれだけでも独創的なのに、ひとつひとつ違うこと。
「同じものはつくっていて楽しくないからつくらないんです」と山田さん。
いつも心に恩師の言葉
20代の頃は糸を染め、セーターや帽子のオーダーを受けたり、ニットの企画デザインの仕事もしていたという山田さん。結婚・子育てを機に家庭に入り、編みもので人に見てもらうものづくりを再開したのは40代半ば。今のようなアクセサリーをつくりはじめたのは50代になってからだそう。
「好きで通っていたギャラリーの白い壁に、いちど自分のつくったものを並べてみたいと思うようになったんです。さんざん悩んだ末にそれをオーナーに伝えて個展をさせてもらえることになりました」。
自分はなにをつくりたいのか、なにかできるのか改めて考えるきっかけになりましたが、そういうときつねに山田さんの頭の片隅にあるのは、学生時代の恩師である上野伊三郎さん・リチさんの「ものまねはいけません」という言葉だと言います。
「好き」で「楽しい」。でもたいへん
「編みものは習った事がないけれど好きなんですね。へんなかたちのものをつくるのも好き。自分にあった好きなことで、いろいろなかたちが自由につくれるのは細編みだったんです」。
例えばレース糸には適したかぎ針の号数がありますが、山田さんはその号数より細いかぎ針を使います。かたくかたく編んでいくのでかぎの部分がよく飛ぶそう。ミシン糸や穴かがり用の細い糸は数本あわせて編んでいきますが、糸をそろえて引くのはとてもたいへん。アクセサリーづくりはいつものメガネの上にメガネタイプのルーペをかけ二重装備で行うそう。山田さんのお話を、イラストの仕事で30代から老眼鏡が必要だった大橋も目を丸くして聞いていました。
なんべんも編んでほどいて
残念なことにアクセサリーづくりに不可欠な糸は廃番になったりして色数や糸の種類がどんどん種類が減ってきています。
「手芸用品店でデッドストックを箱売りしているのに遭遇すると買っておかなくちゃ、と。横着なのでね、探してまで買うことはしないんです。糸を混ぜるとか、あるものでなんとかするのも嫌いではないので」と山田さん。でもなによりたいへんなのは、納得のいくかたちをつくり続けることのようです。
「何個かつくらなあかんのに何もでてこないときはプールに行っても泳ぎながらスピーカーのかたちとか見てたり、むりやり雑誌をみたり(笑)。とっかかりだけでそのままいくということはまずないんですけどね」。設計図もありません。
「ほとんど粘土細工してるみたいな感じですね。編んではなんべんもほどく。違う、なんか違うーって」。
がっかりするより欲しいが先
でもどうして着るものではなくアクセサリーを選んだのでしょう?
「セーターとかは、ギャルソンとかがすごいおもしろいことしてはるのでね、もう私がする事はないしよう追いつかない。それでがっかりするより欲しい、着たいが先で、『参考にする』ゆうていっぱい買いました(笑)」。
短い時間でしたがお話をうかがえて、山田さんのアクセサリーが大きいのも小さいのもどれも新鮮で、こびていなくて、つきぬけたユーモアさえ備えているその理由が、なんとなくですがわかったような気がしました。
特集第2話では、実際アクセサリーをつけてご紹介します。お楽しみに!