シンプルだけど手が込んでいる
「これを革でつくりたい」と見せられた帆布のトートはシンプルなつくり。「靴作りの知識が生かせるのではないか」と引き受けたバッグ製作でしたが、始めてみたらそう簡単にはいかないことがわかりました。革の選定やかたち、パーツの仕様など、櫻井さんと大橋の試行錯誤が始まりました。
最初から決めていたのは片面1枚の革にすること、なるべくすっきりさせること、持ち手と本体の接続部分に手縫いステッチを入れアクセントにすること、そしてポケットをつけること。しかし製作の過程ではそれらがことごとく難問になったのです。たとえば革。
「このトートの大きさで、片面を継ぎ目なしの一枚の革にするというのはすごく贅沢というか、なかなかないと思います。上質の革を選んでも、革は自然のものだから血筋や虫さされなどがあるんですね。それを避けながら、かつ有効に大きなパーツを裁断するのはかなり気を使う作業で、人まかせにできません」。
ポケットと持ち手と本体の接続もすんなりとはいきませんでした。
「『なるべくすっきりそしてかわいく、使いやすく』と依頼され、構造をいろいろ考えてサンプルをつくって大橋さんのところにもっていきましたが、却下が多かったです。つくったけれど大橋さんに渡してないサンプルもあわせるとかなりの数に(笑)」
最終的にこれで、と決まったポケットや持ち手のつながりは納得のいくものだけれど、実は手間のかかる構造。革の裁断と同様に気を使う作業がともなう仕様のものになりました。
「シンプルだけど実はけっこう手が込んでいるんです」と櫻井さん。でも、こだわったすえにたどりついたディテールはすべてこのトートの魅力につながっているようです。
特集の第2話では、「entoan」について、そして櫻井さんのものづくりへの気持ちをご紹介します。
entoanの櫻井さんが、3月6日(水)から伊勢丹新宿店メンズ館で展示会をします。詳細は
Arne+をごらんください。