特集「村上ラヂオ」挿絵版画展によせて
第3話 版画のある暮らし
「村上ラヂオ」より。「猫山さんはどこへ行くのか?」の挿絵版画。「トラ猫」は同じく「村上ラヂオ」の「教えられない」に出てきます。
「村上ラヂオ」の挿絵版画展は2001年から2012年まで、3冊の単行本の発売にあわせて開催、これまでも多くの方に版画をご購入いただいています。今回はその方たちが、どんなふうに版画を飾ってらっしゃるのか、楽しんでくださっているのかをご紹介したいと思います。

 エッセイストの廣瀬裕子さんが現在暮らしている香川のお住まいです。光の差し込むコーナーで黒い犬が気持ちよさそう。大橋の絵が好きで、「版画には絵とまた違った魅力を感じて」手に取ってくださったそう。「これはあそこに置きたい、ここにもいいな」と版画を置く光景も想像できたといいます。購入したのは2001年。「ずっと犬や猫と一緒に暮らしたいと思っていますが、当時は共同住宅で大型犬は飼えない環境、せめて版画で大きな犬を」と選びましたが、実はその後お知り合いから大橋の「トラ猫」の版画のプレゼントも届いたそうです。
「サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3」より。「私が死んだときには」の挿絵版画。
 バッグ作家の江面旨美さんは、居間の本棚に立てかけています。「家の中に軽めで主張しすぎないアートを置きたいと思っているので、まさしくぴったりな版画でした。狭い我が家のインテリアに自然にとけ込んでくれて、おしゃれな雰囲気になると思い」この1枚を選んでくださいました。白い背表紙とロゴタイプが美しい本が並んでいます。版画の右にいるのは江面さんが作ったお人形だそう。「気に入ったアートは人を幸せな気持ちにしてくれる、大橋歩さんの版画もそんなアートのひとつです」。
「サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3」より。「忘れられない、覚えられない」の挿絵版画。単行本のカバーにもなっています。
 神戸にお住まいのTさんは、大橋の版画を3枚お持ちで、リビングの壁に余白をもたせて飾ってくださっています。ちょうどダイニングテーブルに座ると見える位置で、「ごはんを食べたり、ちょっと休憩、とお茶を飲む時に自然と目に入り、穏やかな気持ちになります」とのこと。黄色いセブンチェアの版画は「as life」シリーズのものです。
「村上ラヂオ」より。「猫の自殺」の挿絵版画。
 森脇ひろみさんの家の和室の、飾り棚がある一隅です。選んだのは猫の後ろ姿の版画。その理由は「飼っていた犬(くもちゃん)の後ろ姿にそっくりで、右を向いている角度まで一緒に見えてくるんです。後ろ姿の写真と一緒に飾っています」。ほんとうにそのまま! 温かい気持ちが伝わってきます。森脇さんは、これまで2回神戸で開催された「村上ラヂオ」の挿絵版画展、そして今回の大阪阪急うめだ本店の版画展のコーディネーターをつとめてくださいます。
「おおきなかぶ、むずかしいアボカド 村上ラヂオ2」より。「月夜のキツネ」の挿絵版画。
「キツネの手の『こんこん』という表情や、お月様の輪郭が太くなったり細くなったりしているのが見ていて飽きないなあ」と思ったことと、ちょうど村上春樹さんの「1Q84」を読んだ後で、月が印象に残っていたのが決定打になり」この作品を選んだという会社員のKさん。「居間に飾っていますが、夫婦でふと目をやって「いいよねえ」「そうだねえ」と話すことがあります」。版画の紙がそのままの額装や、シンプルな額縁もすごく好きだそうです。
「サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3」より。「オムレツを作ろう」の挿絵版画。
 スタイリストの伊藤まさこさんは、大橋の版画をきっかけに「家の中にひとつアートが置いてあるだけで、部屋の空気が変わるんだな、おもしろいな、と気がつきました。と同時に今まで『額縁に入った絵を飾る』というのが、自分の中で、どうしてだか大げさなような気がして受け入れられなかったのが、歩さんの版画はすんなりとけ込みました」と言います。「どこかほっとするかわいらしさがある版画のような気がします。だけれども女らしいベタベタしたところがない。だから好きなのかな」。
 置く場所は決めていません。場所や部屋が変わることで新しい発見や見え方があったりするのも楽しいそう。フライパンの版画を選んだのは村上さんのエッセイが好きだったことや、使っているフライパンに似ていて親近感があったから。エッセイに出てくる村上さんの作るオムレツはきっとこんな形です。
  • 余白を生かした額装をしました。額の中で、版画紙が少し浮いているように見えます。
  • 大橋のサインです。その右横が制作年。左側にエディションナンバーが書き入れてあります。
これは大橋の富浦の家の寝室です。「村上ラヂオ」より「柿ピー問題の根は深い」の挿絵。
 前回ご紹介したように版画が摺り上がると、大橋は余白にサインと制作年、そしてエディションナンバーを書き入れ、最後の仕上げの額装を依頼します。「村上ラヂオ」の挿絵版画の額は縦×横が28㎝×27㎝。版画にほどよい空間をもたせ、毎日の生活のスペースに置いていただくのに大きすぎないサイズを選びました。また、通常の額装だと、摺り上がった版画紙に窓を抜いた台紙を重ね、版画の面だけを出しますが、今回は余白を含めての作品と考え、版画紙をそのまま台紙に貼る額装にしています。「小さいけれど、広がりが感じられるように」。摺り師の白井さんにご紹介いただいた「小島額縁」さんにご相談しました。額縁はナラ材に薄く白色を塗ったごくシンプルな仕立て。厚みや幅もさりげないけれどやさしい雰囲気に工夫していただきました。「全体に軽やかに、見えない額のような額装をがいいように思いました。でも、1枚1枚大事だと思いながら仕事をしています」と小島さん。摺りにも額装にも、プロの技が込められています。
 
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