特集 掛井五郎さんの特別なアクセサリー
第2話 芙美さんの箱
  • 彫刻家の掛井五郎さんです。しゅっとしていらして、おしゃれでファッションショーに出られたことも。うしろに見えるのはテラスにおかれた彫刻です。
  • アトリエと住まいのスペースをつなぐ階段にあった絵です。顔や雰囲気が掛井さんに似ていると思います。
  • 棚には小さな作品が並んでいます。木やブロンズなどに限らず、石やワインのコルクや空き箱、あらゆるものが素材となっています。
  • 掛井さんが一日の大半をすごすアトリエです。静かで、やわらかいひかりが差し込んでいました。
  • アトリエの窓枠が、テラスにある彫刻のフレームのよう。建築設計を担当したのは福田一志さん。
  • 調布にある深大寺の山門前の楽焼き窯でてびねりし、素焼きしてもらったというオブジェ。掛井さんの最近のお気に入りの制作法です。
  • お住まいの棚にあった掛井さんと芙美さんの若い頃の写真です。きりりとした美しさは今もかわりません。
  • 結婚50周年の日の芙美さんと、息子さんからのお祝いの花束をひとつの絵にしたのだそう。芙美さんの胸にはその日つけていたバラの花がドライになってそのままついています。
  • これがうちわ。花シリーズと芙美さん(手前)です。うちわは既製品で、芙美さんの顔は印刷してあった柄の上に描いています。
  • 大橋が「これもかわいい!」と手にしたうちわ。お母さんに抱かれているこどもは赤いベロをだしています。
  • これも芙美さんへのプレゼント。ブロンズのイースターエッグにも亀が乗っかっています。「亀さんはなんかかわいでしょう」と掛井さん。
  • 毎日の食卓で使っている器にも掛井さんの絵が。これも深大寺の楽焼き窯で。うしろに「FUMIさんへ」と書いてありました!
「うちわをつくってさしあげた」
 そんな掛井さんのお話をうかがいながら、ふと妻の芙美さんはたいへんだったかもしれないと思いました。引っ越しの回数だけでもかなりの数です。「ひとつのことを貫き通す生き方は好きではない」と語る彫刻家と、音楽をやっていらした芙美さん。いろいろな意味で対峙する場面があったのではないかと思います。でも夫の話を聞きながら芙美さんはさらりとおっしゃるのです。「あれは楽しかったわね」「そうそうすごかったわね」と。
 ふたりのお話を伺っている途中で、掛井さんは私たちにパリ時代の写真アルバムを見せてくださろうとして本棚に取りに向かいました。その様子を目で追っていた芙美さんが「あら、あんなところにある!」と言いました。何のことかと思ったら、おとといから行方不明になっていたキッチンの計量スプーンが掛井さんの手でオブジェに変身して本棚の上に載っているのを見つけたというのです。「こういうことはしょっちゅうなの」と芙美さん。でも怒っているようすはありません。
 何かがなくなることもしょっちゅうだけれど、ふたりが住むスペースには掛井さんから芙美さんへのプレゼントもたくさんあります。
 「このところ暑いから昨日はこれをつくってさしあげたの、かわいいでしょう」と掛井さんが見せてくれたのはうちわ。そのひとつには芙美さんの顔が描かれていました。
  • 箱の中のアクセサリーをひとつずつ説明してくれた芙美さん。大橋は「すばらしい、いいね」と言い続けていました。
  • 上には卵を抱いた鶏の絵が貼ってあります。2005年のプレゼントのようです。
  • ふたを開けると掛井さんの世界が広がっていました! 芙美さんにつけていただいて撮影させていただけばよかったとちょっと心残りです。
箱のなか
 「F U M I」と切り文字が貼られた黒い箱は、チョコレートが入っていた空箱に掛井さんが絵や文字を貼ってリメイクしたものだそう。外側だけですでに素敵ですが、ふたを開けさらに引き出しをあけて大橋も私たちも歓声をあげてしまいました。箱の中に掛井さんのアートが詰まっていたからです。並んでいたのは木を彫ってつくった顔、顔を描いて焼いた陶板、銀でできた人。それらはすべて掛井さんがつくって芙美さんにひとつずつプレゼントしてきたペンダントやブローチ。あっ、今回のアクセサリー展で紹介するブロンズのシリーズも入っています!
 こんなことが日常的にある暮らしは、ちょっと想像がつきません。でも掛井さんのつくるアクセサリーが特別に人をひきつける秘密のひとつが、すとんととけたような気がしました。
 
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