喜佐さんの靴を続けて欲しい
先日発売された『大人のおしゃれ9』をごらんになり、すでにご存知の方も多いかと思いますが、春に先駆けて『キサスポーツ』の靴が再登場。4月10日~15日までイオグラフィックショップ&ギャラリーでも展示即売会を開催することになりました。
『キサスポーツ』はシューズデザイナーの故高田喜佐さんがてがけた靴のブランド。布やゴム素材の軽快な大人のズック靴は多くの女性たちに愛用されてきましたが、2012年で生産を終了していました。しかしなくなっては困るというファンの方のリクエストや、喜佐さんの靴を存続させたいという周囲の強い思いがリバイバルを実現させたのです。
お互いを尊重していた
そのニュースを聞いて大橋はほんとうに嬉しかったと言います。喜佐さんと大橋は多摩美術大学の入学式で出会って以来のずっとずっと長いおつきあい。30代に約3年間、同じアパートをアトリエとしてシェアしていたこともあります。長いあいだには行き違いがあって疎遠だった時期もあるけれど、家族ぐるみで親しかったし、着物のテーマなどで一緒に取材をうけることも多かったそう。
「喜佐さんと私はずっと別々のジャンルで仕事をし、それぞれの仕事にふみこむことはありませんでした。でもお互いに尊重しながら同じ時代をいっしょにやってきた。喜佐さんのつくる靴は新しくて楽しくてかっこよくて、すばらしいデザイナーだったと思っています」と大橋。
シューズデザイナーという新しいジャンルの仕事を選び、病気で亡くなる直前まで『キサスポーツ』に情熱を傾ける姿をみてきただけに再開は個人的にも嬉しかったのです。でもなにより大事なのは「他にない靴、いい靴」だから残したいということ。もっとたくさんの人にはいてもらえたらと願っているのです。
キサスポーツの誕生
高田喜佐さんは1941年東京生まれ。1966年初の個展『靴のファンタジー』を銀座の画廊で開催し、オリジナルブランド『KISA』(のちにKISSA)を立ち上げます。
山本寛斎、コム・デ・ギャルソン、ヨーガン・レール、イッセイ・ミヤケなどのショーの靴、雑誌やPR用の靴を手がける一方、『KISSA』としては一貫してカジュアルな靴をつくり続けました。
ローファーやチロリアンシューズ、レースアップシューズなどのマニッシュな靴や、Tシャツ感覚ではける大人のゴム靴やズック靴。それらはどれも喜佐さん自身が大好きな靴ばかり。そんななかから求めやすい価格帯で多くの方にはいていただこうと1976年に生まれたのが『キサスポーツ』のラインでした。
楽しくて開放的な大人のズック靴
「スタート当時、女性の靴といえばパンプスが主流の時代。でも喜佐さんは子どもの頃にはいたズック靴の楽しさや開放感はそのままに、大人の女性のための靴をつくりたかったんです。ゴムやズック素材は『色が自由に選べたり、加工がしやすかったり、価格的にも求めやすい。革とは違ったカジュアルな楽しさがあるから』と楽しんで使用していましたね」。そう話すのは喜佐さんの弟の高田邦雄さん。喜佐さんが亡くなった後その意思を引き継ぎ、今回の『キサスポーツ』リバイバルを支えている方です。
新しい靴としてはいて欲しい
「喜佐さんはおしゃれが大好きでつくる靴もおしゃれじゃなきゃだめという人でしたが、一方では女性にとってやさしい靴、はきやすさにもこだわっていました。おしゃれと機能性のせめぎあいからミリ単位の微妙なむずかしい注文が出され、職人さんたちもずいぶん苦労していたようです。でも後から真剣勝負というかやりがいがあったと話してくれて嬉しかったですね」。邦雄さんの話に大橋がそばでうなずき、話を続けます。
「『キサスポーツ』の靴はスタート当時の女性たちの気分にぴったりとあい愛用されてきました。だから再登場を歓迎する方は多いと思います。でも喜佐さんのような発想の靴はその後出てきていない。セレクトをちゃんとしていけば、若い人たちも新しい靴としてはいてくれるのではないかと思うんです」。
進化していく予感
喜佐さんの思いがかたちになった『キサスポーツ』の靴はデザインだけで30以上。そのなかから今回最初のリバイバルとしてスタートラインに乗ったのは定番としてとても人気があったベーシックな型が中心です。
「まずはこれをお届けしてはいていただきたい。でもせっかく復活するのですから、喜佐さんが好きだった楽しくて元気が出る靴づくりをめざしたいと思っているんです。色やデザイン、楽しい靴がまだまだたくさんありますから」と邦雄さん。その心意気がショッキングピンクの靴箱に表れています。
これからの『キサスポーツ』、なんだかわくわく。第2話では、この春発売のラインナップをご紹介します。a.とのコーディネートもご期待下さい!