6つの工房
今年1月、大橋は取材で再びしょうぶ学園を訪ねました。その時大橋が思ったこと感じたことは『大人のおしゃれ11』(3月15日発売)でご紹介させていただいていますが、この特集担当も同行。福森伸さん・順子さんにお話を伺いながら園内にある工房やギャラリーなどを見学させていただきました。第2話ではその時の布の工房の様子を中心にお伝えしたいと思います。
現在しょうぶ学園には布、木工、陶芸、絵画・造形・和紙、食、農園の6つ工房があります。園内にある寮で暮らしている方が40名、ご自宅やケアホームから通園している方が80名ほどおいでで、年齢は10代から80代まで。いくつかの工房を利用している人もいれば、ひとつの工房でずっと過ごす人もいるといいます。
糸と布のかたまり、縫い目で埋まった布
この日、布の工房では20名ほどの園生がテーブルに向かい、熱心に針を動かしていました。手元やテーブルの上にある現在進行中のものを見させてもらうと、ひとりひとりひとつひとつ違っています。
布の切れ端にカラフルな糸のついた針を繰り返し刺してどんどん布と糸のかたまりを作っている人、3年以上かけて1枚のシャツにびっしり運針し続けている人、刺繍枠を使ってその内側を埋め尽くすように縫い目を走らせている人、2色の糸で文字を浮かび上がらせていく人。どれも図案におさまらない、見たことのない作品ばかり。針と糸と布から生まれる、それぞれの人の時間が凝縮した表現に圧倒されてしまいました。
快適でひっかかりのない、集中する時間
ここではいろいろなことが個々の利用者のあるがままを優先するかたちで進められているようです。工房内のスペースの使い方も多様。4人の園生が向かい合って針を動かしているテーブルもあれば、ひとりでの作業を好み一隅に陣取る人も。だからでしょうか、工房内に流れる空気はとても穏やかです。
大橋が順子さんに質問しています。
「手を動かすというのはある程度気持ちを安定させる何かになっているのでしょうか?」。
「私たちは作業と言っているんですけれど、その中で彼らは自分の想いでやっている。快適でひっかかりのない集中する時間があって、自分たちは認められていると思っているんじゃないかと想像します。ストレスがなくて機嫌がいい状態だから、工房以外の生活の場でも穏やかだと思いますね。でもお昼のチャイムが鳴ったらぴっとやめて食堂に行きます。展覧会が近いからスピードアップしてね、と言ってもしませんしね。ほとんどの方が評価や目的があってやっているわけではないので」と順子さん。
ヌイ・プロジェクトの発想
ヌイ・プロジェクトはそんな園生たちの穏やかな日常から発生しました。彼らがひたすらに作るものの力強い魅力を誰かに伝えたい、知ってもらうことでコミュニケーションがつながっていくのではないか。シンプルな白いシャツを渡しそれぞれに刺繍をしてもらい、わくわくするようなシャツを仕上げていくのはどうか、布に描き出された刺繍を切り取ってモチーフにして手さげにパッチワークしたり、アートピースとして今のインテリアにあうよう額装するのもいいのではないか、と福森さんたちの発想は広がっていきました。
福森さんたちの試みはこれまでにない新しい「SHOBU STYLE」として注目を浴びる反面、スタッフの知恵やセンス、作業を伴うことが多いため純粋な障がい者アートではない、とコメントされることもあったと言います。
スタッフには成長して欲しい
「でも障がい者アートとくくるのも僕にはしっくりこなくて。ここでやっているのは彼らが先に着手したものを見て僕らスタッフ職員が後から考える。彼らが表現、僕らが工夫をして商品化したり飾ったりするという関係です。例えば木の工房で彼らが木を彫り続けてそれがお皿に使えないとなれば、漆をぬってブローチにするとかそんなふうに僕らは変化させていきます。僕らに理解力や発想力、技術があればお皿としては下手な仕事が上手な仕事に変化させられる。彼ら(園生)はそのままで変わらずにね」と伸さん。利用者の健やかな暮らしだけでなく、スタッフがしょうぶ学園での仕事や経験を通し、成長していくことも大きな目標だと言います。厳しく、そしてやさしい言葉です。それを聞いてしょうぶ学園を訪ねていいな、と思ったもうひとつの理由がわかったような気がしました。園生だけでなく、働いているスタッフの人たちもなんだかしゃきっとしていて素敵なのです。きっと仕事はとてもたいへんだとは思うのですが、ちょっとうらやましい気持ちにもなりました。
第3話では、園生とスタッフが作り出すシャツをじっくりご覧いただこうと思います。お楽しみに!