かたちも動きもやわらかい
刈られたままの羊の原毛から1枚の布、ストールへ。「織る仕事は全工程の1割」というその話を伺い、あまりのことに気が遠くなりそうになりながらも気になってしかたないものがありました。竹崎さんが使っている道具たちです。
糸をつむいだり、巻いたり、織機にかけたり、織ったり。そのつど使う道具がどれもとても美しいのです。用途に応じた無駄のないかたちをしていて、ならば無機質かというと、とてもやわらかな曲線を描いていたりする。動くとますます目が離せません。
竹と銅線でできたトンボ
たとえば左の写真。赤い糸を相手に竹崎さんがしているのは“糸繰り”という作業。原毛をふんわりとカードし(
第1話参照)紡いだ糸は撚りが戻らないようにいったん蒸します。蒸す時は鍋に入れるので糸はツイスト状の束(綛・かせ)の状態ですが、次に織機にかける作業がしやすいようそれを糸巻きに巻く必要があるのです。それが糸繰りです。
糸繰りに使うのが綛をかける“綛掛け(かせかけ・写真左)”、糸を巻き取る“座繰り(ざぐり・写真右)”という道具です。ここで使っている“綛掛け”は西陣織で反物を織る時に使っている絹糸用のもので“トンボ”とか“御光台”とも呼ばれるそう。なんともぴったりの呼び名ですが、観覧車のようにくるくる回る部分は竹、糸をかける部分は銅線でできていて、銅線は近づいて見るとどれもたわんでいます。
この竹や銅線のたわみが実はポイントで、糸に負担をかけずに伸縮を調整する働きをしているのだそう。すごい!
一方 “座繰り”も取っ手を回すと何枚もの木の歯車が噛み合ってくるくると木枠に糸を巻き取るしくみですが、その動きもとてもゆったり、糸にやさしそうです。
繭や、綿花、そして植物の茎などあらゆるものから糸をつむぎ、布に織る行為は世界中で大昔から綿々と続けられてきたわけで、そのためにつくられた道具には世界中の知恵が集結しているはず。美しくないわけがないのです。
かごや古道具をおしゃれに活用
手つむぎや手織りの専門以外にも、気になる道具がいっぱいです。さまざまなかご、古道具屋さんでみつけたというケース、そして旅先の海岸で拾った丸い石。どれもちゃんと活躍しているし、ディスプレイとしてもおしゃれです。ちょっと遊び心があって軽快。竹崎さんのつくる布につながる感性があるように思いました。
1枚1枚のストールには自然とそれがかたちになるまでの長い時間も織りこまれていきます。でも身につけると気持ちがふわっと前向きになるのは、竹崎さんが好きな糸や道具とともにひとつひとつのプロセスを楽しんでいるから。第2話の最後に、つくり手だけが体験できるその時々のシーンとともに、今回展示するストールをご覧いただきたいと思います。